しずく「どうしたんですか、突然？」

侑「いや、合宿のときのこと思い出してたんだけど」

侑「初日の夕飯のとき、次の日の朝ごはんについて話してたよね」

しずく「確か、真っ先にエマさんが卵かけご飯にしたいって言ってましたね」ｸｽｯ

侑「璃奈ちゃんがすぐに卵かけご飯好き！　って言ってたのもかわいかったねぇ」ﾆｺﾆｺ

しずく「ええ」ﾆｺｯ

侑「でもね、いちばん印象に残ってるのはその後で」

しずく「その後」

しずく「……あっ」

侑「『だったら、オムレツと目玉焼きと卵サンド作って、卵パーティーしませんか？』って」

しずく「い、言いましたね、そんなことも」

侑「発想ひとつで朝食もエンタメに変える……」


侑「これもスクールアイドルの凄さなんだなって思ったよ」

しずく「私が言うのも変ですけど、スクールアイドルはそんなに関係ないですね」

侑「ないかぁ～」

侑「それはそうとして、好きなの？　卵」

しずく「まあ、人並みに……でしょうか」

侑「煮ても焼いても生でも茹でてもおいしいもんねぇ」

しずく「他にも卵白はメレンゲにしたり、卵黄はプリンやめんつゆ漬けにしたり、幅がすごく広いですから」

侑「うんうん」

しずく「もちろん全卵で主菜にしても良いですよね」

しずく「食物繊維以外の大抵の栄養素は摂れるとも言われていますし」

侑「完全食、って言葉もあるもんね」

しずく「ええ。それに、加熱の度合いで栄養の吸収率が変わるのも興味深いところです」

侑「……ん？」

しずく「和洋中そのほか。自在に姿を変えて料理になじむ様子はまさに万能といったところで」

しずく「１日２個まで、なんて昔は言われてたらしいですけど、いまは一般の人が食べる分にはそういった制限は必要無いらしいですし」

しずく「ゆで卵は間食や軽食として持ち歩くにも手軽ですからね」

侑「しずくちゃん」

しずく「はい」


侑「たぶん、人並みより好きだと思うよ。卵のこと」

しずく「喋っててそんな気はしてきました……」

侑「新しい発見だね」

侑「卵パーティー、どれもおいしかったなぁ」

侑「さっき出た料理以外にも、温玉、卵焼き、スープ、あとなんかエッグ……エッグなんとか」

しずく「エッグベネディクト、ですね」

侑「そうそう！　彼方さんが教えてくれたのに忘れちゃってたよ」

しずく「卵はお好きなんですか？」

侑「おいしければなんでも好きだよ！」ﾍﾟｶｯ

しずく「卵というより、食べること自体が好きという感じでしょうか」ｸｽｯ

侑「うんっ」

侑「クラス替えでの自己紹介とか、『好きなものはおいしいもの』って言い続けてきたし！」

しずく「範囲が広すぎですけど、ブレは無いですね」

侑「そうそう、お菓子って単語が出て思い出したんだけど」

しずく「はい」

侑「さっき焼き菓子同好会の子に会ってね」

侑「新メニューの試作品をくれたから、お裾分けを」ﾄﾞｻｧ

しずく「お裾分けの量じゃなくないですか？」

侑「極めようとし続けてたらいつのまにか山ができてたんだって」ｺﾝﾓﾘ

しずく「業者さんみたいなことになってますね……」

侑「袋の上からでも良い匂いがするねぇ」ﾎﾜﾜﾝ

しずく「スクフェスのときに出してたクッキーもすごくおいしかったですもんね」ﾎﾜﾜﾝ

侑「……しずくちゃん」

侑「みんなの分は取り分けておいて、先に少し食べちゃおうか」

しずく「えっ、でも」

侑「卵料理の話してたらお腹空いちゃって」

侑「しずくちゃんもそうじゃない？」

しずく「い、いえ、私は」ｸｩｰ

しずく「……」

侑「……」

侑「ね？　ちょっとだけさ、悪いことしちゃおうよ」

しずく「う……」

そういや卵推しあったな

侑「動く前だし……糖分補給しちゃいなよ」

侑「食いしん坊の先輩にそそのかされたと思って」

しずく「そのまま事実な気がしますけど……」

しずく「みなさんより先にというのは、良いんでしょうか」

侑「うーん、手強いなぁ。しっかり者だ」

侑「……いいの？」

侑「このままだと、私が空腹の後輩を前にして優雅にお茶する先輩になっちゃうよ？」

侑「それでも……いいの？」

しずく「脅しだとしたら特殊すぎませんか？」

侑「……」ｼﾞｰｯ

しずく「……」

侑「…………」ｼﾞｨｰｯ

しずく「……ふふっ」

侑「！」

しずく「負けました。私もお腹が空いたので、一緒にお茶させてください」

侑「よしきたっ！　それじゃあ私、お茶淹れてくるね！」ﾋﾟｮｲﾝｯ ﾀﾀﾀｯ

しずく（独特な走り方だなぁ）

ゆうしずに可能性を感じている

～間～

しずく「おいしい……甘さが控えめで食感も軽めなので、どんどん食べちゃいそうです」ｻｸｻｸ

侑「ね！　これ、クリームとかジャムつけても良さそう」ｻｸｻｸ

しずく「わかります！　クレームアングレーズにも合いそうですね」

侑「！？」

しずく「！？」

侑「けほっ、こほっ！」

しずく「だ、大丈夫ですか！？」ｻｽｻｽ

侑「んぐ……ん、ん゛ん゛っ」ﾄﾝﾄﾝｯ


侑「ごめん、急に知らなすぎる単語が出てきてむせちゃった」

しずく「どういう体の反応なんですか？」

侑「なんか……血統書のついてる犬種みたいな名前じゃない？」

しずく「クッキーに対して『犬種と合いそう』とは言わないですね……」

侑「それはそうだね」

侑「じゃあその、クリーム、じゃなくて……クレームなにがしって、なに？」

しずく「『なにがし』って日常会話で初めて聞きました」

しずく「えっとですね、カスタードクリームに似てて、でもサラッとした感じの甘いソースです」

しずく「たまにケーキの横についてたりしませんか？」

侑「あぁー、分かってきたかも」


侑「なんかお皿の空いたとこにピャッてなってて、その上に赤とか紫のソースで模様描かれがちなやつ？」

しずく「あながち間違いではないです」

侑「……あれ？」

侑「カスタードに似てるってことは、主となる食材は」

しずく「卵黄ですね」

侑「こんなところにも卵の姿が……」

しずく「……」

しずく「……私」

しずく「思ってたより、卵のことが好きなのかもしれません」

侑「ええっと……」

侑「……良かったね？」

しずく「はい」

侑「好きなものが多いのは良いことだよ！」ﾍﾟｶｯ

しずく「ふふっ、そうですね」ﾆｺｯ

侑「犬種といえば、もういっこ思い出したことが」

しずく「なんでしょう？」

侑「合宿の直前、終業式の放課後に部室で一回集まったでしょ？」

侑「で、かすみちゃんが期末でなかなかの点数を取って、そこになかなかの反応してたじゃん」ﾈｺﾉﾃ

しずく「あっ」

しずく「……」

侑「……」

しずく「……あれは、ですね」

侑「うん」

しずく「夏休みと合宿直前ということもあって」

しずく「ウキウキのあまり、つい」

侑「分かるよ」

侑「長期休みの前って、油断してるといろいろ勢い余るよね」

しずく「うぅ……」ｶｱｧ

侑「私もついスキップしちゃったりするもん」

しずく「それはないです……」

侑「ないかぁ」


侑「それでね、そのときの言葉の内容なんだけど」

しずく「けっこう容赦がないですね？」

侑「『２２点でにゃんにゃん♡ 可愛いじゃん！』って言ってたでしょ？」

しずく「あの、復唱は勘弁していただけませんか？」ｶｧｰｯ

侑「ごめん。動き付きだったからインパクトがすごくて」

しずく「ハイになっていてつい……」

侑「話の流れ的に、あと最低一回は言うことになっちゃうかな」

しずく「うぅ……分かりました」

侑「でもね、あの動きのキレはさすがだなって思ったよ！」

侑「同好会でも演劇部でも体力づくりしてるんだもんね。すごいよ！」ｷﾗｷﾗ

しずく「素直な尊敬の眼差し、余計にいたたまれなくなりますね……」

侑「でね、『２２点でにゃんにゃん♡』だとすると」

しずく「はい」

侑「『１１点でわんわん♡』になるわけだよね」

しずく「！」ﾊｯ

侑「この場合は……どう？　可愛い？」

侑「犬派って聞いたことあるから、これをちょっと聞いてみたくて」

しずく「……」

しずく「それはですね……」

侑「……」


しずく「最高です」

侑「想像以上に強めの犬派だ」

すでに赤点なのにさらに半減させるな

侑「ちなみに点数的には？」

しずく「それは補習待ったなしですね」

しずく「１００点満点のテストだった場合、相当まずいと思います」

しずく「授業を聞いていなかったか、回答欄を間違えたか、作成側の難易度調整のミスかのどれかじゃないかと」

しずく「約１割は……まずいです」

侑「そこは冷静だ」

侑「……ちょっと待って」ﾊｯ

しずく「どうかしましたか？」

侑「『２２点でにゃんにゃん』『１１点でわんわん』ということは」

しずく「ええ」


侑「『１２点でわんにゃん♡』ということに……？」

しずく「！！」

侑「犬と猫のハイブリッド。これは強力な合わせ技じゃないかな」

しずく「いえ、しかし」

しずく「私個人としては、わんわんオンリーの方が」

侑「……いや」ｽｯ

侑「まだ、決めるのは早いよ」

しずく「……どういうことですか？」

侑「ちょっと想像してみて欲しいんだけど」

侑「仮に犬をしずくちゃんの飼っているオフィーリア、猫をはんぺんとします」

しずく「分かりました」ﾎﾜﾝﾎﾜﾝﾎﾜﾝ

侑「もし……」

しずく「……」ｺﾞｸﾘ

侑「オフィーリアのお腹にはんぺんが潜りこんで、１頭と１匹でスヤスヤしていたとしたら……？」

しずく「！！！」

侑「大きくて安心感のあるゴールデンレトリバーと、小さくてしなやかな白猫が一緒にいる光景」

侑「これは……可愛さポイントが高いんじゃないかな」

しずく「なるほど……」

しずく「それは、認めざるを得ません。確かにとても強力なタッグです」

侑「でしょ？」

しずく「犬の可愛さ賢さ愛おしさは自明の理として、猫ももちろんとっても可愛いです」

しずく「体格の差、シルエットの違い。違う動物同士が寄り添っているのは一種の鉄板ですらありますね」

侑「うん」

しずく「……でも」

侑「……？」


しずく「でも私は犬がいちばん好きです！」

侑「そういう好みの主張は大事！」

侑「それなら……１１点でわんわんにしよう！」

しずく「はい！」


侑「……しようってなにが！？」

しずく「それは全然分からないです！」

しずく「全体的に……この会話自体もよく分かってません」

侑「それはごめん、私が悪いね」

侑「……」

しずく「……」

侑「……一回落ち着かせてもらっていい？」

しずく「すみません、ボルテージが上がってしまったばかりに」

侑「いや、私が焚きつけちゃったからだし」

侑「しずくちゃんからしたら勝手に会話相手が迷走しだした状態だもん」

侑「これはただのもらい事故だよ」

しずく「いえ、そんなことは」

侑「……」ﾌｨｰｯ　

侑「でも、ああいうしずくちゃんはなんだか新鮮だったなあ」

しずく「お恥ずかしいところをお見せしてしまって……」

侑「ううん、なんだか嬉しかった」ﾆｺｯ

しずく「……そう、ですか？」

侑「うん。直接一対一でっていうのも初めてだったしね」


侑「ただそれがさっきの意味分からない会話でだったのは本当にごめん」

しずく「大丈夫です。なんだかんだで楽しかったので」

侑「良かったぁ～」ﾎｯ

しずく「……ふふっ」ｸｽｯ


侑「ちなみに点数的にはどう思う？」

しずく「１２点ですよね？　変わらず補習待ったなしだと思います」

侑「さっきと同じく冷静だ」

しずく「そもそも２２点でも危ういとは思ってましたけど、補習の代わりに課題が出されたとのことなので」

侑「どっちが良いかは人によるけど、教室に拘束されないだけ課題の方がマシ……なのかな」

侑「……まあ、なんか会話の流れはおかしくなっちゃったけど」

侑「最初の発想の時点で凄いなって思っててね」

しずく「発想、ですか」

侑「うん。２２って数字から即座にあの反応が出てくるのは凄いよ」

しずく「それ、褒められてるんでしょうか……？」

侑「心から」ｷｯﾊﾟﾘ

しずく「表情に嘘が全然ないぶん逆に複雑な気持ちです」

侑「発想ひとつで芳しくないテストの点も可愛さに変える……」

侑「これもスクールアイドルの凄さなんだな～って思ったよ」

しずく「さっきもそうでしたけど、スクールアイドルはそんなに関係ないですね」

侑「ないかぁ～」

おわり

そしてかすみんは留年した乙

おつおつ！
普通にしてる(？)しずくちゃん有難い

おつおつ
ゆるーく掛け合いしてるだけのゆうしずってすごい珍しかったわ

ああ、とても──とてもよかったです──

食いしんぼ高咲は流行れ

しずくちゃんの卵子ぱくぱくしちゃう話かと思った

メノノリ的な話かと

おつおつ
アニメの細かいところよく拾うな

神

この侑ちゃんは身長が156センチあると強硬に主張してそう